フランシス・ヴェベール監督による風刺の効いた痛快コメディ。フランスで記録的な大ヒットとなった傑作コメディ「奇人たちの晩餐会」に続く2002年公開の作品だ。
ゴムメーカーの経理マンである主人公ピニョン(ダニエル・オートゥイユ)は、真面目だけが取り柄の冴えない男。退屈で面白味のない40男である。会社では、上司や同僚から無視され、人事部長(ジェラール・ドバルデュー)からは嫌われている。私生活でも恵まれない。美人の妻からは愛想を尽かされ離婚、いまはひとり寂しくアパート暮らしだ。妻が引き取った息子からも疎まれ、バカにされる始末。ある日突然亡くなっても、悲しむ人が誰もいないといった哀れな主人公なのである。
唯一の救いは、20年堅実に勤め上げた会社があること。しかしある日、ピニョンは人員削減でリストラされることを知らされる。失意のあまりアパートから身投げして死のうとするが、隣人の老人ベロンの機転で救われる。ベロンは、解雇されないための秘策をビニョンに授ける。その秘策とは、自分がゲイであることを、会社に知らせること。もちろんビニョンはゲイではないが、ビニョンを解雇すれば、ゲイ差別だと社会から糾弾されかねない。まして製品のひとつであるコンドームの不買運動にでもなれば大事だ。
ビニョンがゲイであることの証拠として社長あてに送った合成写真。お尻丸出しで男と抱き合っているビニョンの意外な一面に驚く上司や同僚たち。主人公は何も変わっていないのに、写真1枚で周囲のビニョンを見る目が変わってしまったのがとても滑稽だった。「いままでの僕は透明人間だったが、いまは"困った男"になってしまった」とビニョンがつぶやくように、会社では、まったく見向きもされない男から一躍注目の人になってしまう。
ゲイ騒動に伴う周囲の人間との軋轢や葛藤などもあるが、合成写真が偽物だと見抜き疑いの目を向ける聡明な女性経理部長、好奇心から離婚後初めて食事に誘う冷淡な元妻、にわかに父親への関心と親近感を高めて近づいてくる息子など、周囲の人々のさまざまな変化などから、ビニョンは生きていることを実感し、自分への自信を取り戻していく。
「奇人たちの晩餐会」は、人間の本質を見抜き、社会への風刺を忘れない傑作コメディだったが、「メルシィ!人生」もそれに勝るとも劣らないユーモアとペーソスにあふれた映画である。10分に1回は笑わしてくれるし、それと同時に、生きることの素晴らしさを教えてくれる人間ドラマでもある。最後にほのぼのとあたたかい気持ちにさせてくれるのが、とても良かった。この監督は人間に向けるまなざしがとても優しく、好感が持てる。
勝手に評価★★★★★(★5つが満点)
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